YAKATA 「YAKATA」制作記 (2)・CD編(1998.8〜9)


●はじめに

 最初にお断りしておきますが、「YAKATA」サウンドトラックアルバムの発売は、現時点(注・1998年夏の時点)では残念ながら決定していません。今も関係各位にいろいろご尽力いただいておりますが、レコード業界において「ゲームのサントラは売れない」というのが定説になっている現状(声優さんモノは別ね)では、なかなか発売にこぎ着けない、もしくは「出すだけ」に終わってしまう、というのが実状のようです。

 では、なぜ発売も決まっていない「サウンドトラックアルバム制作記」なんてものを書き始めたか。

 今年の夏、私は一つのゲームと出逢いました。もちろん、プレイヤーとして。そのゲームは「東京魔人学園剣風帖」と言います。ゲーム雑誌などの前評判がほとんど聴かれなかったこのゲームは、しかし制作側の愛とこだわりにあふれた、名作でした。個人的には、自分がこれまでプレイしたゲームのベスト3に入るもの、と思っています。
 その音楽を担当された作曲家の新田高史さんと、このホームページを通して知り合った天樹悠さんのおかげで知り合うことが出来ました。それが98年8月初め頃のことです。で、その時点では未定だった「東京魔人学園剣風帖」のサウンドトラックが、そのすぐ後に発売決定となったのです。このことに、私はかなり……なんというか、パワーをいただいた気がします。生みの親である作者がちゃんと面倒を見てあげないと、子供である曲たちがかわいそうだな、と。
 これが、私が現在サウンドトラックアルバム制作に入っている、主な理由になると思います。

 その新田さんが「東京魔人学園剣風帖」の公式ホームページ上で、サウンドトラックアルバム制作日記を書かれています。1ファンとしてこのコーナーを楽しみにしているのですが、私が自分のホームページでこの「サウンドトラックアルバム制作記」を書こうと思ったのは、これに影響を受けての事です。ああ、影響を受けやすい私。

 実は、ゲーム発売前後に既に一度サウンドトラックアルバムの制作にはとりかかっていたので、今回の作業は残っている部分のレコーディングや修正ということになるのですが、それをリアルタイムで書き残していければ、ということから、しばらくの間ここで「サウンドトラックアルバム制作記」を書いていこうと思っています。
 気が向かれた方は、おつきあい頂ければ幸いです。また、叱咤激励、感想などは、ぜひぜひ掲示板の方にお寄せ下さい。とても励みになりますので。(98.08.25)

●98.08.25

 再び「YAKATA」サウンドトラックアルバムの制作を開始。データを見ると5月末〜6月の時点でかなりの作業が終わっていたので、これからは総てのチェックと、残っている部分のレコーディング、ということになる。

 現時点での収録予定曲数は30〜40曲。レコーディングが終わった時点で、長さによっては入らない曲が多数でてくるだろう。

 実際の作業としては、プレイステーションに内蔵された音源(音楽制作記9・動画編 参照)で演奏している曲については、総て自宅スタジオの音源(シンセサイザーとか)に置き換えてレコーディングしなおす。ただし、作曲時には、「シンセサイザーなどで録音した物をプレステの内蔵音源用に修正」したものを使ったので、それを再度自宅のシステム用に戻すのではなく、もともとの作曲時のデータを使って修正作業を行うのである。まず1日目にレコーディングと、楽器間のおおまかなバランスをとり、一日置いて翌日にミックスダウン(普通のステレオで聞ける状態に、楽器を混ぜること)という手順で進めていくことにする。

 というわけで、以下は今日の作業分。

「M001 メインタイトル」(CD-1-01)電源を入れると聞こえてくる、ピアノソロによるメインテーマ。ゲーム中では40秒ほどで、Aメロのみなので、Bメロ(歌でいうと「いつのまに〜」の部分)を弾き加え、1分40秒のヴァージョンも作っておく。

「M004 タイトルバック」(CD-1-02 アイキャッチ)各章頭のCG部分の曲。これもCG有りのサイズ(7秒)と無しのサイズ(20秒)の2パターンを作っておく。

「M005 角島」(CD-1-04)角島のBGM。最小限の長さだと1分半だが、もう一度リピートさせると2分半。これも両方作っておく。

「M010 青屋敷#1」(CD-1-07)青屋敷のBGM。「こんな音入ってたっけ?」という音が入っていて、びっくり。自分でやったことなんだけどね。ゲーム版は音を減らしているので、雰囲気が変わらない程度に原曲に近くする。これも最小限の長さだと1分半だが、リピートすると3分弱になる。一応両方作っておく。

「M021 十角館」(CD-1-15)十角館のBGM。オルガンによるソロが何パターンかあったのだが、最終的に一番気に入っていた、自分が弾いたものを使うことにする。ソロの半分以上は、キーボーディストの江草啓太氏に弾いてもらったもの。

「M022 水車館」(CD-1-17)水車館のBGM。モンスター出現エリア用(ドラム有り)と非出現エリア用(ドラム無し)をつなげるが、楽器のバランスが難しい。ドラムのフィル(おかず、とも。小節のかたまりの切れ目になるとドラマーは手数が多くなるが、あれのことです)を少し加える。

「M018 データベース」(CD-1-12)パソコンのBGM(ゲーム中では未使用だったかな? 秘宝館で聞けます)。ディレイ(エコーのようなものです)命の曲だが、シンセ内蔵のエフェクターを使ってかけてしまう。

「M036 マヤ」(CD-2-04)マヤのBGM。サイズを作曲時のものに直す。

「M075 千織」(CD-1-09)千織のBGM。ハープの音がちょっと気になったので、データを全音下げてベンドで上げてやる。こうするとシンセサイザーによってはサンプリングポイントの位置がずれ、極端に変わっていた音がそれほどでもなくなったりするのである。悪夢界の低音zitharも同様にしている。

「M025 バク」(CD-1-22)バクのBGM。ゲーム中ではずっとリピートしているが、折角なのでオチをつけてあげる。

「M007 悪夢界」(CD-1-05)悪夢界のBGM。そのまま再生すると5分くらいになってしまうので、泣く泣くダイジェスト版を作る(別に泣いてないけどね)。

「M108 最後の悪夢界」(CD-2-25)変形青屋敷の悪夢界のBGM。「悪夢界」に比べてちょっと低音が弱い気がしたので、少しレベルを上げる。

●98.08.26

 さすがにミックスダウンが12曲もあると、だんだんよく解らなくなっていく。もっとも、演劇の仕事の時はもっと大量に一日で仕上げることもあるが。

 今日は演劇の仕事の方の歌録り作業(舞台「銀河鉄道の夜」)もあったので、「YAKATA」の作業の方があまり進まない。うーん。

「M029 迷路館」(CD-1-28)迷路館のBGM。うにょにょうにょにょ…というシンセベースの音をちょっと手直し。やっぱりドラムとのバランスが難しい。

「M035 人形館」(CD-2-03)人形館のBGM。ベースソロ部分の音質をちょっと手直し。2回ソロが出てくるのだが、1回はハーモニクスタッピングによる変な奏法のものにする。変な奏法の方が、なんだか自分らしい気がするし。

「M044 パーツはめ終わり」(CD-2-07 再生)人形館、ソウイチの母人形が復活するアニメ部分のBGM。ゲーム中では、アニメシーンの曲はどうしても音量が小さくなっているので、CDの収録時間的に可能ならばこれも入れてみたいと思って作業をする。

「M064 遭遇〜戦闘」(CD-1-06)通常戦闘シーンのBGM。ピアノという楽器は鍵盤の数だけ同時に音が出るが、シンセサイザーというのは楽器によって同時に出せる音の数が決まっている物なのである(たとえば8音とか32音とか)。で、この曲はかなり音数を使っているので、その「同時発音数」との戦いとなる。弦楽器からシンセ系からドラムまで、ほとんどローランド系のシンセサイザーを使っているのだが、その中での音数のやりくりがポイントだった。

「M112 エンドテロップ」(CD-2-28 エンドタイトル)エンドテロップ時のBGM。この曲だけ一種さわやかな感じで、浮いていなくもない。メロディにいろんなキャラクターのモチーフが使われているので、そのバランスをとったりした。聴けば聴くほどパット・メセニーなのはご愛敬(ほんとか?)。明日(8/27)はこの続きから作業することに。

●98.08.27

 ここ数日Roland JV880というシンセサイザーの調子が悪く、音が出ない時がある。困ったものだ。一口にシンセサイザーと言ってもいろいろあって、機種によって音色に得手不得手があるので、これが壊れたら替わりに別のシンセサイザーで、というわけにも行かない。作曲している途中ならまだそれもできるかもしれないが、「YAKATA」の場合は一度出来てしまったもののシェイプアップ作業なので、やっぱり出来るだけ最初のイメージで行きたいのである。

 で、結局どうしているかというと、電源を切ったり入れたりして、音が出るまでそれを繰り返すのである。これじゃあ映りの悪いTVをたたいて直すのと同じだなぁ。
 今日は2曲でアコースティック・ギターを録音。しばらく弾いていなかったので左手の指先がイタイ。

「M081 紀一」(CD-1-19)紀一のテーマ。長くなってしまう。脇キャラ(失礼)に収録時間を割いてしまってもいいのだろうか。ランコやリカのテーマですら入れないつもりなのに…。でもとりあえず録音しておく。

「M059 エンドアニメ2」(CD-2-29 そして…)プレイされた方はご存じと思うが、「YAKATA」ではゲーム終盤、エンドテロップの前と後にアニメムービーが挿入される。この最後の部分の方のBGM。ここは演出がいろいろと変更され、最終的に現在のゲームの様な形(ブラックアウトしてメインテーマ)になったのだが、曲としては以前の演出につけた音楽の方が良いので、そちらを採用することに。

「M065 ボス戦闘」(CD-1-24 戦闘#2)ボス戦闘用のBGM。ちょっと古いタイプの曲かもしれないが、作業しながら自分でも燃えてしまう。そういう曲って、なかなか無い。データを見ていると、400小節以上あった。そういえば、これも長かったんだよなぁ。サイズを小さくして(3分弱)、細部(メロディなど)を弾き直す。

「M102 時計塔の崩壊」(CD-2-19)時計塔が崩壊し、ユキヤたちが脱出するオートイベントシーンのBGM。当初の演出ではオートではなく、プレイヤーがキャラクターを動かして脱出するタイムトライアル的なイベントの予定だったので長めに作ってあったのだが、ゲーム中では結局ちょっとしか流れなくて残念だったので、今回は曲の長さを、ちゃんと展開できる分だけとる(3分弱)。

「M028 ユリエ」(CD-1-26、3-08)ユリエのテーマ。ゲーム中では、ミズキの回想アニメ中に流れるクラシックギター中心の物と、ユリエ救出時に流れるものの2ヴァージョンがある。一応後者の、打ち込みによるアレンジのものを録音。あとで余裕が有れば、前者のヴァージョンもクラシックギター+フルートかなにかで録音したいなぁ。

「M047 ウェディングドレス」(CD-2-12 永遠の想い出)ユキヤの過去、姉の自殺シーンのBGM。といっても短くて、12秒しかない。CDの収録時間あわせに使おうと思い録音。一応ユキヤのモチーフである。

「M106 回想」(CD-1-10)ユキヤが眠るときに「回想する」を選ぶと流れるBGM。

「M058 エンドアニメ1」(CD-2-27 脱出)角島炎上〜海上自衛隊に救出されるまでのアニメ用BGM。絵と合わせる時に修正した部分をもとの作曲時の形に戻し、細部を整える。

「M046 時計館」(CD-2-11)時計館BGM。これはもともとアコースティック・ギターが入っている曲なので、今日ちゃんと本物を録音する。が、とても弾きにくい。このフレーズは、キーボードで作ったからである。響きを重視すると、それが「演奏できるか」なんてどうでもよくなってしまうので困りものである。結局2種類のオープンチューニング(FADGAD・6→1、Capo=1 と DADGAD・6→1、Capo=1)を使って部分部分に分けて録音。それを4回繰り返し、重ねる。

「M051 永遠・倫典」(CD-2-18 永遠、倫典との戦闘)時計館悪夢界4のラスト、復活した永遠と倫典とユキヤの対面シーンのBGM。「時計館BGM」ではバイオリン達が弾いていたフレーズを、ここではアコースティック・ギターで弾くのだが、やっぱり弾きにくい。理由は「時計館BGM」と同じである。こちらは2回録音し、左右に振る。ああ、今日のこれだけで左手の指先がぷにぷにになってしまった。日頃の鍛錬は大事です、ホント。

●98.08.28

 昨日「JV880の調子が悪い」と書いたとたん、今日は一発で音が出た。う〜ん、不思議。

 今日はおとといから昨日にかけて作業した曲のミックスダウンを行う。夜は友人の水野ノブヨシの曲のレコーディングなので、夕方で作業を終了。人形館のベースソロの音色をちょっと修正したりする。

●98.08.30

 昨日は、26日に歌録りをした舞台「銀河鉄道の夜」のデータ修正とミックスと雑事で一日終わり、「YAKATA」関連は手つかず。

 そういえばこのページの冒頭に書いた、新田高史氏の「東京魔人学園剣風帖」サントラのマスタリングは終わったようで、発売が楽しみである。

 今日はシノハラステージング関係の舞台の曲のレコーディングなどで、また「YAKATA」関連は手つかず。明日こそ。

●98.08.31

 あいかわらずJV880(シンセサイザー)の調子が悪いのでだましだましレコーディングする。修正が必要な曲は一応今日で終了、あとは、リリースできることになればその時点でちょっと直すかも。

「M067 ラスボス戦闘」(CD-2-26 最後の戦い)ラストの戦闘用の曲。かなり縮めたが、それでも5分ある。とほほ。

「M056 青屋敷#4」(CD-2-23 変異後青屋敷)変形後青屋敷でのBGM。エレキギターを生に差し替えようと思ったら、ギター用のエフェクター(音を歪ませたりエコーをかけたりする物です)がバッテリー切れで動かない。とほほほほ。シンセといい、こいつといい、日頃の行いが悪いのかしらん。とりあえず打ち込みのままで行くことに。ちょっとバランスを変え、オルガンを前に出す。

「M096 テンクウ」(CD-1-31)はたして入るかどうか判らないが、とりあえず修正作業をしておく。曲としては気に入っているのだが(変拍子だし)、収録時間の都合によるのである。

「M048 ユキヤ」(CD-2-13)ユキヤのテーマ。ちょっと楽器を加える。

「M037 ソウイチ#2」(CD-2-09)ソウイチのテーマ。この曲は渡辺岳夫氏風。こちらもちょっと楽器を加えてみる。

「M109 殺人鬼」(CD-3-10)殺人鬼戦闘用の曲。エンディングがなかったので、ちょっと作る。これはネタ的に短くできないので、長さは3分になる。

●98.09.02

 一応8/31まででレコーディングは終了。他には、一番ラストに流れる「メインテーマ(ナイトメア・ヴァージョン)」、「オルゴール曲」、アンケートで人気のあった「ミズキのピアノソロ」「ミズキとユリエの連弾」(暗闇の囁き)、そして(もしかしたら)綾辻氏のvocalによるメインテーマ「忘却の夜」、というラインナップになる予定。綾辻氏の歌は、現時点ではどうなるか判らないのですが。これらの曲は以前にミックスダウンしたものを使うつもりなので、とりあえず今回は作業していない。

 たぶんこの全曲はCDのサイズに入りきらないので、なにかを削ることになると思う。あと、仮曲順を決めなくてはいけない。それで、私の実作業はだいたい終わりである。あとは……ちゃんとリリースできるように営業しなくちゃね。応援、よろしくお願いいたします。

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