「YAKATA」制作記 (1)・サウンドトラック編(1998.11〜12) |
◆1.黎明編 〜「暗闇の囁き」〜 1998年6月4日、ミステリ作家の綾辻行人氏原作・原案・脚本・監修によるプレイステーション用RPG「nightmare project YAKATA」が発売になった。音楽担当である私が参加してからかれこれ2〜3年はたってしまっただろうか。いやー、長かった。そもそも私がこの仕事を手がける事になったのは、1994年に月景館別館 という劇団によって上演された「暗闇の囁き」の音楽を手がけたのがきっかけである。SFやミステリが好きで、綾辻氏の小説も当時出ていたものは全部読んでいた(特に「人形館の殺人」は大好きだった)私は、喜んで曲を書いた。幻想的かつ内省的、そこだけ切り取られて抽出されたような時間と空間の中で、少女が演じる少年役...。そういうイメージから出来た「暗闇の囁き」のメインテーマは、いまでもたいそう気に入っている。 その公演を見にいらした綾辻氏が音楽を気に入ってくれたらしく、「今ゲームを作ってるんだけど、音楽をやってくれませんか」という主旨のお電話をいただいたのがその年(だったか翌年だったか...忘れてしまいました。たはは)の夏頃。そして96年の秋から、作曲の作業に入ったのである。 なお、当時ロール・プレイング・ゲームをやったことがなかった私は、勉強のため定番である「ドラゴン・クエスト」と「ファイナル・ファンタジー」(ちなみにどちらも4作目でした)をプレイすることにする。それが発端となり、その後私はすっかりゲーマーと化してしまうのだが、それはまた別の機会に。(98.06.27)
◆2.発芽編 さて、作曲を始めると言っても、まだシナリオも完全なものは無く、大まかなストーリーが決まっている程度。「普通のRPGなら、こういう種類の曲が必要だろう」というものを制作スタッフにリストアップしてもらい、あとは原作のイメージと、「暗闇の囁き」の楽曲の方向性でという綾辻氏からのリクエストで、ぼちぼちモチーフを作り始める。これが96年末〜97年始めにかけての事。しかし、たとえばこの時点では、キャラクター達がゲーム中どうやって体力を回復するのかなども決まっておらず、だから一応宿屋での休息(!)を想定して、「おやすみなさい」「おはよう」「回復の泉」の曲なんてのも作った。結局、使わなかったですが。 さて。私が、この初期の段階で決めていったのが、楽曲の調性・・・つまりキーである(ハ長調とかニ短調とか、そういうやつね)。ゲームは水車館、迷路館など、いくつかの館を移動して物語が進行する、ということは決まっていたので、各館毎にその象徴となるような調性を決めた。たとえば、物語の基点となる角島、青屋敷は、もっとも基本的な調性であるAm(イ短調)、戦闘はどの場所での戦闘かにかかわらずEm(ホ短調、これも基本的な調性)、というように。ただ、この試みは結論から言ってしまうと、ゲームプレイ時においてあまり意味をなさなかった。そりゃそうだよね、館から館にぴょんぴょん跳ぶ訳じゃないし、もし続けて聞いたとしても、あんまりわからないもの。 まあ、せっかくこだわって設定したんだから、ということで、結局この調性に関する部分は変更せずにそのまま残したのだが、それによって一度だけ問題が生じた。それはオルゴールの制作に関して、だった。(98.06.27)
◆3.鳴筺編 〜オルゴール〜 ゲーム中にオルゴールから曲が流れるシーンがあったので、せっかくだからシンセサイザーではなく、本物のオルゴールを作ってしまおうと思い立った私は、オルゴールの制作をしている会社((株)三協精機さん)に問い合わせてみた。曲の楽譜とテープを送れば、オリジナルのオルゴールを作ってくれるとの事だったので、早速資料を送って制作を依頼。ところが、しばらくして連絡があり、「キー(調性)が変わってしまいます」とのこと。オルゴールにはオルゴールに適した音域(音の高さの範囲ね)があり、それに合わせると元のキーでは作れないのだそうな。困ってしまって、実際に編曲作業をして下さっていた方と直接相談、一度は「無理です」とおっしゃっていたのだが、なんとか知恵をひねって下さり、最終的には元のキーで完成した。編曲担当のSさんに大変感謝。 ちなみにオルゴールの場合、同じ高さの音を続けて弾くと音が濁るので少し間隔を開けることが必要だそうで、実はこっちも問題に。私が編曲したものは、伴奏で同じ音がかなり続くので、結局そのニュアンスを残すため、同じ音の「歯」(オルゴールの、プツプツが飛び出した円筒に当たって実際に音を出す部分です)を複数作ってかわりばんこに鳴らすことになった。重ね重ね、編曲担当のSさんには感謝。 おかげさまでオルゴールは大変好評で、「普通は実物まで作らないでしょう」というおホメのお言葉を多数の方からいただいた。また、量産できるようにキーを変えたものがいくつか作られ、購入者向けのプレゼントにも使われたようである。よかった、よかった。(98.06.27)
◆4.館編1 〜フィールドBGM〜 さて、最終的に「YAKATA」に関して私が書いた曲は200曲弱だろう、と思う。使わなかった曲もかなりあるので、実質的にナンバリングされているのは120曲ぐらいかな。ここまで曲数が多いと、ある程度分類しておかないと訳が分からなくなるので、フィールド関連、キャラクター関連、ストーリー関連、戦闘/システム関連、アニメ関連の5つに分けて管理した。「YAKATA」に限らず、RPGには、場所を表現するBGM、つまり「ある場所に行くとずっと鳴り続けるBGM」というのがある。たとえば村に入るとその村の曲、とか、飛行船で旅をしている間は飛行船の曲、とか。それを「フィールドBG(M)」と呼んでいるのだが、「YAKATA」で一番最初に作り始めた曲がこのフィールド関連、特に各館の曲であった。 自分の狙い目としては、ゲーム中でフィールドから戦闘に移行することもあるので、「戦闘曲よりも闘争的でない」もの、悪夢に侵されているとはいえ、現代で人間が実際に住んでいる建物なので、「過剰にファンタジックではない」もの、という線であった。当初から、館内部でモンスターが出現するエリアと出現しないエリアではBGMのブキミさ加減を変えよう、というアイデアがあったので、それをゲーム中で実現させる時の事を考えて、ワンコード(和音が変化しない)でほとんど作曲。もともと小説の「館シリーズ」は愛読していたので、そちらからもかなりインスパイアされているのだが、それぞれの館が持つ「イメージ」を音に置き換えて、基本のモチーフの上にメロディを何種類かのせる、という形をとっている。その後、それらのメロディをまた変形して館ゆかりのキャラクターのメロディに使ったり、またその逆で、ゆかりのキャラクターのメロディの一部を館BGMの一部に使ったりもしている。(98.06.29)
◆5.館編2 〜角島、各館曲〜 ゲーム開始後、自由にユキヤを動かせるようになって最初に流れるのが角島BGM。全般にフィールドBGMは、「嬉しい」「悲しい」といった、「感情的な方向性」を感じさせないことを心がけて作っている。「家具のように、そこにある音楽」とは、作曲家エリック・サティの名言。青屋敷のメロディは青屋敷当主・中村千織のメロディの変形。実はこの曲、ドラムの低音は心臓の鼓動の音を使用。物語が進行するにつれて「青屋敷1」「青屋敷2」「青屋敷4」と曲が変化していくのだが(「3」はありません。あしからず)、その鼓動がだんだん大きくなっていくようになっている。 十角館は、その名の通り10拍子。1箇所、ドラムだけになる部分のみ、11拍子にした。水車館は「永遠に触れることの出来ない美への執着」のイメージ。中間部のメロディは紀一のメロディである。迷路館は「彫像」「妄執」などのイメージ。館ゆかりの人物はミルコだが、彼女にはテーマ曲を背負う場面がないので、曲は作っていない(ミズキも同じ)。 人形館は和洋折衷の建築物ということでちょっと和風、また中庭の桜の木から「空間」のイメージで作曲。ソロ部分はフレットレスベース。時計館は23/8拍子という変拍子で、アコースティック・ギターが曲の中心になっている。何故かというと、時計館の先代当主・古我倫典(小説「時計館の殺人」にも登場)の名前のモデルが、綾辻氏の知人のアコースティック・ギタリストの岡崎倫典氏(実は私も知り合い)だからである。ソロ部分はシンセサイザー。この曲だけ、コードが展開している。 ちなみに、十角館、人形館、時計館の曲は、実はソロ部分が異なるものがいくつかあり、ゲーム中ではランダムに読み込まれるようになっている。これは、自分が1ゲームプレーヤーとして、従来のRPGなどでずっと同じ曲がかかっているのが気になっていたために試みてみた事なのだが、手間がかかった割に残念ながら効果は薄かったようだ。オマケモードの秘宝館でもちゃんとランダムに再生されるので、機会があれば何度か聞いてみて下さい。そういえば「青屋敷2」も何パターンかあるなぁ。 悪夢界(ダンジョン部分)に関しては、当初こんなに広くなると思っていなかったので、基本的に1曲だけしか作っていない。その1曲が実は長くて5分くらいあったので、全体を4つに分割し、たとえば「A-B-C-D〜」、「B-C-D-A〜」というように順番をずらしたものを4曲作って、これもランダムに読み込んでいる。ただしどの曲も冒頭のメロディは同じなので、プレイしていても気付かないかもしれないが。 最後の悪夢界だけ別曲にしてある。これは、通常の悪夢界曲と同じモチーフを使っているが、少し緊迫度を加えてみた。11拍子と12拍子の2つの部分から出来ている。(98.06.30)
◆6.人物編 人物のテーマメロディ(モチーフ)については、前に書いたように「ゆかりの場所」のメロディを使っていたり、変形させている場合が多い。最初に作ったのはユキヤのテーマだった。メインテーマと同じく、リリカルなメロディを心がけてピアノで作曲。ソウイチ(本人)は、故・渡辺岳夫氏の音楽の影響が強い。千織のテーマはかなり初期に作曲。ゲーム中では、第1章最初の、ディナー後の長ゼリのシーンのみの使用となっている。 ユリエのテーマは、ミズキの回想シーンで何度か流れるので、そのイメージ、「思い出の少女」の雰囲気で作曲。アニメの回想シーンは短いためAメロだけしか使用されていないが、ユリエ救出時にBメロまである少し長いサイズのものが流れる。作曲時にはさらに展開するCメロもあった。 紀一のテーマは、水車館ホールでの花巻オバサマのセリフのシーンなどで使用。作曲時にはかなりロマンチックなものだったが、その後アレンジによってブキミさを増した。車椅子紀一接近のシーンでも、同モチーフを使った曲が流れる。ちなみに、あのシーンの車椅子のきしみ音は効果音を担当していただいた(株)キューブさんに作っていただいたもので、大変評判がよい。怖くて。 ソウイチの別人格たちについて。そもそもソウイチの人格達は何故出来たか、というのを考えるに、かつて彼が子役の時代に、自分が脇役で出演したドラマの主人公や、TV局で会った(強烈な印象の)人物の人格を模倣して出来たのではないか、と。そういう裏設定を考えて作ったので、たとえばランコのテーマは、(YAKATAの世界で)過去にTV放送された、ソウイチが出演していたドラマ「名探偵江戸川乱子」の主題歌をまず作り、それを推理シーン用に編曲してみたのである。なにを手間なことを、とお思いになるかもしれないが、ほんと、その通りである。ちなみにこの裏設定は、私が勝手に考えたもので、オフィシャルなものではありません。あしからず。 サンダータイガーのテーマは、よく似た名前の某レスラーのテーマ曲をパロディにしてみた。リカのテーマは、キャラクターのモデルである香山リカさんがテクノ(YMO)がお好き、と聞いたので、YMOちっくに。テンクウの曲(またしても変拍子で、11拍子)は、実はこれもソロの部分が異なるものが4曲用意してあって、ランダムに流れる。ゲーム中ではたしか2回しか使われていないので、あとの2曲は永遠に聞かれ得ないのであった。...と思ったら、オマケモードで聞けましたね。ははは。 マヤのテーマはいくつか書いてみたのだが、綾辻氏からの「ちょっとエキセントリックなものを」というリクエストに応じて現在のものに。といっても、ゲーム中ではマヤが仲間になるシーンでしか流れず、オマケモードでも聞けないので、きっとみなさん憶えていないでしょう。バクのテーマも、あまりゲーム中では流れないので残念。私はスヌーピーの音楽が好きで、このバク曲のベースラインは「Linus & Rucy」へのオマージュだったりするのだが、まあこれは作った人間がそう思っているだけなのでお気になさらず。 ちなみに、エンドテロップ時の音楽はメインテーマのアレンジヴァージョンだが、所々にユキヤや、ソウイチ(と4つの別人格)、ユリエ、マヤのメロディが織り込まれている。(98.07.01)
◆7.物語編 〜ストーリー関連曲〜 ストーリー関連の曲というのは、物語の進行に添って流れる曲のことで、たとえばユキヤの回想シーン曲とか、そのあたりである。おおむねキャラクターかフィールドのモチーフメロディをアレンジして作っていくので、楽しくもあり苦しくもありだった。たとえば、ユキヤが自室で「回想」する場面は5回あって、当初は、青屋敷のことを思い出しているときには青屋敷のメロディが鳴り、というような複雑な曲だったのだが、実際にやってみるとあまり効果的ではなかったので、完成直前にすべて1つの曲に統一してしまった(チャイムのSさん、Mさん、お手数お掛けしてすみません)。また、時計館から十角館に戻ってきた直後、ユキヤが「実は...」と語るシーンで流れるメインテーマも、弦によるもっと重厚な曲だったのだが、なんだか雰囲気に合わなかったので別のアレンジにした。タイムリープ時の曲も、間際に作りなおしている。ようするに、実際ゲーム上で聴いてみないと雰囲気に合っているのかいないのかよくわからない場合がかなりある、ということでしょう。 幽閉されたユリエとミズキのテレパシー(?)による会話のシーンでは、私が好んで使う、ひよひよひよひよ〜という感じの伴奏が続く。このあたりは、ミニマルミュージック(次項・◆8.戦闘編を参照)の影響。 時計館最後、永遠・倫典との戦闘前の曲は、時計館の背景モチーフ(時計館BGMでは弦楽器で演奏)をギターが奏で、ユキヤのテーマメロディ(=時計館のテーマメロディ)をゆっくりにしたものがメロディになっている。 同じく時計館の、塔脱出時のBGM(延々繰り返されるピアノのフレーズが基調になっている曲)は、アスクK氏のお気に入りで、「YAKATA」プロモーションビデオなどでも使っていただいている。ゲーム中では残念ながらちょっとしか聞くことが出来ないが、実際はかなり長く作ってあるので、機会があったら秘宝館で聞いてみて下さい。 ちなみにゲーム中、ミズキ(とユリエ)のピアノ演奏が2回聞けるが、これはどちらもかつて私が舞台「暗闇の囁き」の為に書いたメインテーマである(◆1.黎明編参照)。(98.07.02)
◆8.戦闘編 「YAKATA」中、戦闘シーン用の曲は全部で5曲あって、そのうち最初に作ったのは、一番プレイヤーが多く耳にする普通の戦闘時の曲。作り始めた96年末の時点では、たとえば「戦闘が終わった時キャラクター達が勝利のポーズをとるか(「ファイナルファンタジー7」とか「ワイルドアームズ」みたいなやつね)など、基本的な演出がまだ決定していなかったので、とりあえず遭遇、戦闘、終了(と全滅)を制作。まず戦闘曲を、昂揚感はやや押さえめに、戦闘的な(あたりまえか)感じで作曲。そのイントロ部分として遭遇曲を、エンディング部分として終了曲を作ったのだが、終了曲に関しては、この時作ったものは使われなかった。ボス戦用の曲は、昂揚感を増し「いけぇ〜っ!」(アムロかおまえは)という感じで作曲。人形館での、ソウイチの母との戦闘のみ別曲で、これは当初戦闘中にアニメが挿入されることになっていたので(敵の体力が一定の値に減るごとにアニメ、という予定だったが、実際のゲームではそうならなかった)、やや悲愴な感じに。 さて、実はラスボス曲はかなり悩んだ。やっぱりラストだし、奇抜なことをやりたかったのだが、いまさら合唱曲にしても「ファイナルファンタジー7」と同じだし、どうしようかと考えているときに、制作協力という形で「YAKATA」に参加されていた、作家の神山修一氏と雑談していて、ふっとひらめいたのが、自分のルーツのひとつであるミニマル・ミュージック。 で、メインテーマ、青屋敷曲、悪夢界曲などのモチーフを混ぜ合わせてミニマル的に構成し、やっとラスボス曲が完成した。ただ、作曲時において、ラスボスがどのくらい強いか、つまり戦闘がどのくらい長引くかまったく不明だったので、異様に長い曲を作ってしまい、またしてもチャイム(ゲーム制作会社)のMさんにお手間かけさせてしまった。氏曰く、「長いっす」。そもそも20分以上もあったんだよなぁ、この曲。とほほ。 今回、一番の入魂作品は、なんといっても「殺人鬼」の戦闘曲である。綾辻氏の裏代表作「殺人鬼」の主人公(?)で、私自身けっこうお気に入りのキャラクターだったので、しっかり別曲を作らせていただいた。さらにこの曲には仕掛けがあり、小説上で初めて殺人鬼が言うセリフ「喰え」を綾辻氏にお願いしてしゃべってもらい、それを新潮文庫版「殺人鬼」で初めて「喰え」が出てくるページ数(たしか153ページ)にちなんで、曲開始から153秒後に聞こえるようにしてある。さらに音像処理をして、ステレオで聞くと頭の後ろの方から聞こえてくるようにしてみた(しかもモノラルだと音が消えてしまう。ステレオで聞いてね)。われながらずいぶん変なところに凝ってしまったものである。 くだんの殺人鬼にはゲーム中なかなかお目にかかれないが、秘宝館では常に出迎えてくれる場所があるので、そちらで聞いてみて下さい。(98.07.03)
◆9.動画編 〜アニメーション〜 ゲーム中に流れる音楽というのは、プレイステーションの中に入っている小さなシンセサイザー(サンプラー)を使って演奏されているものと、音楽CDと同じ(か、もしくはちょっと圧縮された)音質で、直接ディスクから再生される方式とがあり、場面によってそれらが使い分けられている。前者の場合データサイズは小さくすむのだが、音質や表現、同時に発音できる音数などに限界がある。いままで紹介したフィールドBGMや戦闘曲、キャラクターの曲などはほとんどこちら。後者の曲はアニメやCGムービーのシーンで使われ、これは録音したものが再生されるだけなので、生楽器も声も入れられるし、同時発音数の制限も無い。というわけで、ゲームのメモリ的な制約を考えなくてすむ分、自由に作ることが出来るのがアニメ部分などのBGMなのである。アニメのBGMに関しては、スケジュールの関係上アニメの完成前から作業を始めなくてはならなかったため、コンテから時間を割り出して曲を作り、最後にサイズを修正という手順になった(まぁ、いつものことです)。私の場合Macを使ってDigital Performerというソフトで作曲をしているのだが、まず絵コンテをスキャンしてPremiereというソフトでクイックタイムムービーを作り、それを先のDigital Performerで読み込んで、実際に絵を動かしながら作業を進めた。これは以前、「Neo Hyper Kids」というCGアニメの番組に音をつけた時から始めた手法で、完成型がイメージしやすくけっこう便利(準備に手間はかかりますが)。 レコーディングとMAはしたものの、ゲームの演出の都合でカットになってしまったアニメもあったが、音楽が入っていたシーンはだいたい使われていたように思う。自分としてはエンドアニメ曲(角島脱出〜自衛隊に助けられるまでのとこ)なんかが気に入ってます。 CGによるムービーシーン(各章冒頭の館CG)はちょっと暗めだが美しく、最初に見たときはやっぱり感動した。ここの音楽はかなり初期に作った物。実はCGの長さが微妙に違うので、全部違う長さで作ってあったりもする。(98.07.04) ◆10.効果編 〜SE〜 今回私は、音楽だけでなく効果音もいくつか作った(全体の3〜4割)。また、音楽監督ということで、効果音を作る会社さんに、作成に関しての指示出しなどもした。悪夢界の効果音は、たまたまその時点でのスケジュールの都合で、2日でほとんど全て(50種類程度)を作らなくてはならず、全部自分のスタジオで作業した。たとえば水車館悪夢界のガチョウの鳴き声は、私です。ははは。チャイナオレンジと、いじめられバク、それから胎児は、友人の声優、MOMO(鈴木梨乃)に手伝ってもらった。ちなみに彼女は「ときめきメモリアルドラマシリーズvol.2 彩のラブソング」や「クロス探偵物語」などのゲームにも出演している。 それから、時計館悪夢界の時計がたくさんある所では、ちゃんと「時計館時計」を鳴らしてある(地上の館内部は、普通の時計ですが)。これは制作開始直後からずっとやろうと思っていたところ。 他に変わったところでは、主人公たちが中村青司の日記を読むシーンがあるが、あのページめくり音は、新書版「黒猫館の殺人」をめくっている音である。今回ゲーム中に「黒猫館」が取り上げられなくて、かわいそうだったので使ってみた。ははは。(98.07.05)
◆11.声優編 「YAKATA」では、ゲーム中の重要なシーンやアニメシーンで声優さんによる音声が流れるが、私も一部レコーディングに立ち会った。以下はその時の印象。マヤ役の大野まりなさんは青二プロ所属。実はゲーム中ワンフレーズだけマヤが歌うシーンがあったので、私が立ち会ったのである。彼女はリカちゃん声優グランプリでグランプリを受賞している二代目リカちゃんで、そしてまた今回も人形を演じている。歌の録音は声録りのスタジオでぱっぱっと終わらせてしまったのだが、音程がバッチリだったのが印象的だった。後から修正するつもりだったんだけど、ぜんぜん必要なかったもんね。スタジオではプリクラ付き名刺が争奪戦になり、また後日きちんとお手紙とともに名前入りボールペンが送られてきた。たいへん丁寧な方である。現在インターネット上で「MARINA STAR WONDERLAND だっちゅーの!」を放送中。 ユリエ役の前田愛さんは、チャイドル(プチドル?)の前田愛さんとは別人。セガサターン用ゲーム「センチメンタル・グラフィティ」の永倉えみる役などが有名なところ。バンド活動もされているようである。声録り当日は、わざわざ「ユリエっぽい」衣装でスタジオに現れた。役作りに気合いが入っているのである。ちょっと翔んでる永倉えみる役とは違い、落ちついた少女であるユリエの役もしっかりこなすのはさすが。ちなみに彼女も現在インターネット上で「前田家の野望」を放送中。 ちなみにゲーム中のセリフで名言だなぁと個人的に思っているのは、ソウイチの「飯食って風呂入って寝る」と、ユキヤの「ああ、なんだかよくわからない」である。後者は特に、煮詰まった時に使いでがある。とほほ。(98.07.06)
◆12.休息編 ◆10.効果編でも少し書いたが、ゲーム中の効果音に関しては、悪夢界部分の効果音の他にも基本的な効果音、つまりカーソル移動やOKボタンなどの音のコーディネイトも私は今回行っている。カーソル移動(カッカッカッ...)とOK音(ピッ)あたりは実は最後まで修正をしていたところで、最終的にはBGMに埋もれない音程で(ピッやカッにも音程はあるのです)やや小さめの音量、というところに落ちついた。バランスをとるのが困難というよりも、どういう状態にしても「これでいいじゃん」っていう気になってしまうのだ。なかなか難しかった。 休息時の音はシンセサイザーのコーラスによるAの和音(A、C#、E)。Aは母親の鼓動と同じで一番安心する音なのである(だったと思う...実はうろ覚え)。 戦闘開始の曲(画面が崩れて暗転し、モンスターと遭遇する部分)も、実はデータの扱いとしては効果音と同じ形になっている。当初は半分の長さだったのだが、実際にゲーム画面を見ると曲が足りなく聞こえたので、完成直前に倍のサイズに変更。戦闘終了後、経験値画面の曲も、効果音で使っている音をうまく利用して曲を付けた。(98.07.07) ◆13.付録編 「YAKATA」には、ゲームを終了すると現れるオマケモードと、ゲーム中に、直接物語の進行に関係ないオマケが入っている。人形館のアリスちゃんの部屋のコンポで聞ける2曲の歌などがそれ。1曲目は「Night of the Evil」by カメレオン。カメレオンというのは、アリスちゃんのモデルである作家の有栖川有栖氏が昔やっていた同人誌だそうな。このイベントは綾辻氏の書かれたシナリオにちゃんと指定があり、「(前略)ヘビメタが流れる、というミニイベントを検証して下さい。ヘビメタの曲は、きっと南澤さんがサクッと作ってくれます。」となっていたため、要望に応えてサクッと(でもないが)作ったのである。嗚呼、要望に弱い私。 この曲にも話せば長い元ネタがあるので書いておく。覚悟してね。長いから。 有栖川有栖氏の小説に「ダリの繭」という長編があり、その中で、登場人物である作家の有栖川有栖が聞いている「ミステリ作家のためのヘビーメタルカセット」だったかな?(本が手元にないので、記述があいまいです。すみません)の1曲目が、Demonというバンドの「Night of the Demon」だった、という話を知人から聞きつけた(私も既読だったのだが、すっかり忘れていた。ははは)。早速レコード屋に行くも、さっぱり見つからない。なんとか新宿で中古LPを入手(後で、ベスト盤のCDを見つけた)、それを元に、わざと似た感じで作ったというわけ。ゲーム中のクレジットでは作詞者の名をシュウイチとしてあったと思うが、これは「ダリの繭」の登場人物の名。作曲のアリスはもちろんゲームの登場人物であるアリスのこと。作詞、作曲、演奏、歌ともに、実際は全て私である。 これらが全てわかるのはおそらく有栖川有栖氏ご本人だけだと思うのだが…果たして氏は「YAKATA」をプレイしているだろうか? 蛇足ながら。実は詞にも仕掛けがあるのだが、英詞で歌っていて解らないと思うので、ここに訳詞を載せておく。 「そこは ダリの繭の中のような暗黒の世界/ 孤島のパズルのように出口はない/おまえは正気を失う/闘うには弱すぎ 目を開くには臆病だからだ/邪悪なものたちの夜/ 月光の下でゲームが始まる/邪悪なものたちの夜/悪夢へようこそ」 (「ダリの繭」「孤島パズル」「月光ゲーム」は、有栖川有栖氏の長編小説の題名を織り込んでみたのである)。 余談だが、実はアリスちゃんは最初バンドではボーカルをやっている設定で、シナリオにもちゃんと「ボーカルやってんねん」と書かれていたのだが、私がすっかり忘れて自分で歌を録音してしまったため、あとでシナリオの方を「バンドでベースをやってんねん」とかなんとか直してもらったのである。ひえー、すみませんでした。 もう一方の綾辻氏の曲は、このゲームのメインテーマに綾辻氏が歌詞をつけたもの。歌は私の自宅スタジオで録音した。オマケ曲としてもう1曲別のものも歌っていただいたのだが、そちらは諸般の事情で今回は使われなかった。いつかどこかで発表できるといいなぁ。 この曲は当初2案あり、もっと楽器が沢山入ったフルヴァージョンと、アコースティック・ギター+少々のアコースティック・ヴァージョンが存在した。綾辻氏に聞いていただいたところ、両者の中間ぐらいのアレンジで行こうという事になり、ゲームに収録されたヴァージョンが完成したのである。 間奏の途中から後ろの方で鐘が鳴っているのだが、これは時計館の鐘(聞こえた方は、タイミングを計ってみて下さい。時計館時計になってるから。でも多分聞こえないだろうなぁ。音小さいし)。なおギターは部分的にチューニングを変えている(オープンチューニング)ので、1本のギターではまったくこのとおりに弾き語り出来ない。ちなみにサビ部分でヴォーカルを追ってくるテレホンボイス風のコーラスも、綾辻氏。(98.07.08) |
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