YAKATA 「YAKATA」制作記 (3)・CD編リベンジ版(1999.6〜8)


●はじめに

 「YAKATA」サントラの大手レコード会社からのリリースは、(時機を逸したこともあり)99年6月16日の時点で完全に断念いたしました。で、とにかく一度形にまとめたいという気持ちから、自主制作にてサントラのリリースに踏み切る決心をいたしました。今後はこのページで、その制作状況をお伝えしていきたいと考えております。
(98年のゲーム発売からしばらくの間ひそやかに行われていたリリースに向けての動きは、制作記(2)をごらん下さい)

 現時点で決まっていることはほとんどありませんが、2枚組以上のボリュームになるであろうこと、ほぼ全曲録音しなおすであろうこと、フルート、アコースティック・ギター、エレキ・ギターなどは生でレコーディングしなおすであろうこと、そして中ボス曲やラスボス曲はムヤミに長い完全版をできれば収録したいなぁということ、価格は2枚組でも2000円くらい、もし4枚組になったとしても3〜4000円程度に押さえたいということ、などをつらつらと考えております。

 他の仕事と平行しての作業になると思いますので、なかなか思うように進行しない場合もあると思います。どうかあと少しだけ、温かい目で見守ってやって下さい。

 ゲーム発売から一年が過ぎ、いまさらながら、本当にいまさらながら制作に踏み切る決意をしたのは、ゲーム封入のアンケートやネット上、またメールなどで「音楽がよかった」「サントラが聞きたい」というメッセージを送って下さった皆さまがた一人一人への感謝の気持ちが、とても大きな動機となっています。いままでなかなかサントラが出ないにもかかわらず、応援し続けて下さった皆さまにお礼を申し上げます。ほんとうに、どうもありがとう。

●99.06.21(月)

 前回のあらすじ。実作業は一応終了していた「nightmare project YAKATA」サウンドトラックであったが、諸般の事情によりいくつかアプローチしていたメジャーレコードレーベルからはついに発売することが出来なかった。ゲーム発売日の急な決定など、諸般の事情でサントラ発売時機を逸したのが最大の要因であると推察される。現場レベルではどこも好感触だっただけに、やはり残念。以上、あらすじ終わり。

 というわけで再び「YAKATA」サウンドトラックアルバムの制作を開始。とりあえず権利関係などの問題をクリアにしておくためゲーム発売元のアスクさんと、綾辻氏に連絡。内諾を得る。今後のスケジューリングとしては、まず生楽器を使う曲の選定とレコーディングのブッキング、それと平行して他の曲のリストアップとレコーディングである。とりあえず他の仕事の合間に、毎日少しづつでも作業を進めることに。

●99.06.22(火)

 とりあえず収録予定曲をリストアップ。だいたい80曲前後である。無理してショートヴァージョンにする必要がないので、それぞれ長めに録音するとやっぱり2枚組以上になる模様。このあとは、昨年アルバム用にMIXした曲を一曲づつ再度聞き直し、サイズの修正と、生で録音しなおす楽器の選定を行う。編曲を大幅に変更することはないのだが、当時使っていて今は壊れてしまった楽器などがあるので、そのあたりの差し替えはしなければならない。

●99.06.28(月)

 今日から実作業。M001「メインタイトル(ピアノヴァージョン)」(CD-1-01)、M004「タイトルバック」(CD-1-02 アイキャッチ)、M005「角島」(CD-1-04)、M007「悪夢界」(CD-1-05)、M063「遭遇」〜M064「戦闘」(CD-1-06)は昨年の第一期サントラ制作時のデータをベースに、無理に短くしたサイズを伸ばす。全体のサイズによっては再度短くすることもあるが、とりあえず全曲ロングヴァージョンでいく予定。ちなみに「悪夢界」などは5分以上ある。M003「本編オープニング(未使用)」(CD-1-03 始まり)とM111「戦闘終了」(CD-1-06 遭遇〜戦闘#1に含む)は第一期サントラ収録予定外のものなので、ゲーム用のデータからブラッシュアップ。特に戦闘終了(経験値画面)曲はプレステ用開発機材で作曲したものなので、ゲーム開発時と逆に、通常の楽器に「置き換える」作業をすることになった。とはいえかなり短い曲なので(4小節)、まぁ雰囲気でちゃちゃっと。

●99.06.29(火)

 M010「青屋敷1」(CD-1-07)、M075「千織」(CD-1-09)、M106「回想」(CD-1-10)、M018「データベース」(CD-1-12)、M021「十角館」(CD-1-15)は、第一期サントラ制作時のデータをベースに若干サイズを伸ばす。「十角館」は特にソロ部分(オルガン)が、私が弾いたものとキーボーディストの江草氏が弾いたもの合わせて10テイク以上あるので、そこから2つだけ選ぶ。

 以下は、以前収録予定ではなかった曲。M074「ディナー(未使用)」(CD-1-08)は、千織登場前のディナーシーン用BGM。当初はユキヤたちがちゃんと食事をするはずだった(製品版では食後のシーンから始まっている)。M011「千織登場」(CD-1-09 千織に含む)はアニメ部分のBGM(ジングル)。M016「青屋敷#2」(CD-1-11)は、事件が起きた後の青屋敷BGM。これもソロパート(というか、メロディらしくない弦での上モノパート)が私と江草氏合わせて16パターンあるので、それをセレクト。M017「ランコ登場」〜M076「ランコ」(CD-1-13)、M020「サンダータイガー登場」〜M078「サンダータイガー」(CD-1-14)は以前は収録予定ではなかったもの。ちなみに昨年発売された『マジンガー伝説』というCDには、「サンダータイガー」の元ネタ曲である「怒りの獣神(獣神ライガー)」が、ダンバインの主題歌などでおなじみMIOさんの歌で収録されている。私は出ていたのを知ってすぐ買った。やっぱMIOさんはかっちょいい。

 M077「ピアノメロディ#1」〜M105「ピアノメロディ#5」(CD-1-16 インタールード#1他)は、だんだん変化していく音楽室のピアノ曲で、全部で5曲。ゲーム中ではプレイアビリティを考慮してかなり早いテンポにしていたが、今回収録するにあたりややテンポを落とした。これで第一章分は終了。

●99.07.01(木)

 今日から第二章・水車館。M022「水車館」(CD-1-17)は第一期サントラ制作時のデータをベースに若干サイズを伸ばす。M081「紀一」(CD-1-19)、M088「紀一ぴくり(未使用)」(CD-1-21 蠢く影)、M027「紀一車椅子」、M089「紀一接近」(CD-1-23 窮地)はすべて紀一関連。他の、たとえば時計館のモチーフの変形を背負い、館と密接な関係にあるのはプレイヤーキャラクターであるユキヤなのだが、この水車館の場合、館のモチーフを背負っているのはミズキでもユリエでもなく紀一であり、曲の構成としてもかなりしっかり作ってあるのだ。M024「ユリエミズキ会話」(CD-1-20 ユリエとミズキの会話)はテレパシーでの会話部分。M080「ミズキのピアノソロ」(CD-3-06)、M084「ユリエ・ミズキ連弾」(CD-3-07)は、共にもともと「暗闇の囁き」のメインテーマとして書いたもので、拙作「PIANO SOLOS」に収録済みなので、ここにはゲーム中で使用されたショートヴァージョンを収録することに。

●99.07.04(日)

 M025「バク」(CD-1-22)、M065「中ボス戦闘」(CD-1-24 戦闘#2)、M028「ユリエ」(CD-1-26)を作業。バクは第一期サントラ制作時のデータそのまま。ユリエは生楽器を使わないほうのヴァージョンで、これと別にギターとフルートのヴァージョンを作る予定。

 そして、問題の中ボス戦闘曲である。ノーマルサイズ(3分)のテイクと、ロングサイズの15分のものを作る。本来はロングサイズで作ったのだが、メモリの関係でゲームには入りきらなかったのである。今回はボーナストラックとして収録することに。とはいえ、ラスボス曲と違ってほとんど同じことの繰り返しではあるのだが。

●99.07.06(火)

 M029「迷路館」(CD-1-28)、M032「リカ登場」〜M091「リカ#1」(CD-1-29)、M092「リカ#2」(CD-1-30)、M033「クルーザー」(CD-2-02)を作業。迷路館は第一期サントラ制作時のデータそのまま。リカに関しては第一期サントラには収録しない予定だったので、ゲーム制作時のデータを少し修正して使用することに。クルーザー曲は自分でも気に入っている曲の一つだが、ゲーム未使用曲だったため第一期サントラには収録しない予定だった。このあたりが、自主制作で作ることのメリットでもある。とりあえず、日を変えてゲームで使用するために簡略化した楽器(エレピ)を弾き直すことにする。この曲もアドリブパート(フルート)が10テイク以上あるので、その中から6テイク選ぶが、これで曲を再構成すると6分だか7分だかになってしまう。このままフルサイズで収録するか、ショートヴァージョンを作るかちょっと考えてみよう。

●99.07.08(木)

 M033「クルーザー」(CD-2-02)の続き、エレピのレコーディング。作業するうちだんだん他の楽器も気になってきて、フルートを少しいじり、ベースも後日録りなおすことに。サイズの件はレコーディングが終わった後に考えることにする。

 M034「テンクウ」(CD-1-31)はイントロに登場シーンのアニメ用BGMを追加。登場BGMは当初ジャンっというオチがついていたが、アニメは背景に効果線が走っているだけで映像的な「ウケ」がないためジャンっは割愛されていた。なので今回はそれを復活したのである。ちなみにここまでで第三章までほぼ終了。時間的には既にCD1枚分以上になっている。

 M035「人形館」(CD-2-03)はベースソロを新たに別の楽器で差し替えようと思ったが、前の音色のイメージが強く新しい音が気に入らないため断念、前の楽器のままでいくことに。M036「マヤ」(CD-2-04)はマヤの登場シーン一回だけのための曲。アニメ用に合わせて伸ばしたサイズを元に戻す。M037「ソウイチ#1」(CD-2-05)はソウイチのテーマのひとつ。完全にプレステを想定して施したアレンジで、特にピアノが打ち込み的過ぎるので、第一期サントラに収録予定だった「ソウイチ#2」のピアノを移植、ちょっといじってフィットさせる。余談だが、途中から入る人形館のモチーフ(フルート)が見事にハマっている(美的に、という意味ではなく、理論的に)のを再確認、ちょっと感動(自画自賛)。こういう寄せ木細工的なアイデアは、特に好きなのである。

●99.07.13(火)

 M042「人形館#3」(CD-2-06 人形館〜中庭〜)、M044「パーツはめ終わり(アニメシーン)」(CD-2-07 再生)、M045「母との戦闘」(CD-2-08)、M043「ソウイチ#2」(CD-2-09)まで作業終了。各館20分以上あるため、ここまでで100分。どういう割り振りの収録にするか悩む。やっぱり4枚組・3000円の線が濃いかなぁ。

●99.07.19(月)

 一週間ぶりに作業再開。M046「時計館」は第一期サントラ制作時よりサイズを伸ばし、生でレコーディングしたアコースティック・ギターを4本から2本に減らしてくっきりさせる。M047「ウェディングドレス」(CD-2-12 永遠の想い出)はアニメサイズではなく少し長いデモサイズに戻す(といっても13秒)。M048「ユキヤ」(CD-2-13)は「ソウイチ1」と同じくプレステでの演奏を想定して施したアレンジのため淡々としている。少しだけベースを直す。M049「タイムリープ#1」(CD-2-14)はほとんど手を加えず。M050「タイムリープ#2」(CD-2-15)はゲーム中ではプレイヤーの動きに合わせて展開するので、ここでは3つのパートに別れたそれらを編集、1曲にする(といっても28秒)。M101「永遠復活 (未使用)」(CD-2-17 時計塔)は、時計塔に移ってからのフィールドBGMとして作ったものだが、スケジュールの都合で使用されなかったもの。これもプレステでの演奏を想定して弦だけで編曲してあり、ちょっとさみしいので少しだけピアノを加える。M051「永遠、倫典との戦闘」(CD-2-18)は第一期サントラ制作時よりサイズを伸ばす。

●99.07.22(木)

 最終章〜ラスボス曲まで作業終了。これで、もし生楽器を新録しないとするとレコーディングはほとんど終了ということになる。長さ的にはCD3枚分程度、ただ曲順の都合で4枚組にするかも。すかすかの4枚組にするよりも、なんとか3枚におさめたいところである。

 あとの問題はフルートやエレキギターを新規に生楽器で録音するかどうか。現時点では自分としては否定的で、「このまま出してもいいかな」という気持ちになっている。これが疲れから来た判断でないことを祈りつつもうしばらく棚上げにし、次の作業に。

 レコーディングの最終段階は、綾辻氏のヴォーカル曲「忘却の夜」(CD-3-02)のリミックス作成である。この曲はデモの段階でノーマル・ヴァージョンとアコースティック・ヴァージョンの2パターンがあり、最終的には綾辻氏の意向で両者の中間的なヴァージョンが採用されたのだが、今回当初から、ボーナストラック部分にこの別ミックス(2パターン)を入れようと考えていた。また時計館BGMをいじっていて、これもアコースティック・ヴァージョンが作れることを発見。それも(間に合えば)ボーナストラックとして収録しようと思っている。

●99.07.25(月)

 23、24、25とミックスダウンの作業。ミックスダウンというのはいろんな楽器のバランスをとり、まとめて、ステレオの状態にするというもの(前も書いたかなぁ)。全体的に駆け足の作業なので、ここで修正部分に気付くことも多い。というわけで多少修正しながらDAT(デジタル・オーディオ・テープ)に録音していく。

 このあとの作業は、DATからコンピューター(ハードディスク)に録音し、全体の音質や音量などを整え、フェードアウトなどをつけ、曲順を決めてCDに焼くことになる。ただし今回はCD3枚分くらいの量があるため、物理的に全ての作業を一度に出来ない。そのため作業しつつデータCDを焼き、また作業、という形になりそう。この間コンピューターが使えなくなるので他の仕事はストップしてしまう。果たして時間的余裕があるかどうか。さておたちあい。

●99.08.02(月)

 ここ一週間ほどYAKATAづけの日々。DATからコンピューターに録音した曲を、全体のバランスを見ながら1曲づつレベル調整し、フェードアウトなどをつけ、メドレー風に続く曲はそのようにつなげる。普段CD1枚程度の分量ならば作業できてしまえるハードディスクも、さすがに3枚同時進行は不可能なので、CD1枚分のマスターを作っては仮落としとデータディスクを焼き、その後次に、という手順なのでえらく時間がかかる。

 それらの作業も土曜日に一段落し、あとは最終調整を残すのみとなったので、インナースリーブの原稿書きを先にする。とりあえず日曜日昼にざっと出来たので、久しぶりにしっかり睡眠。2時から10時まで、やっと4時間以上眠れた。

 その後マスタリングの最終調整を行い、CDの音のほうのマスターは無事完成。DISC-1と2はほぼストーリーにそった曲順となっており、ヴォーカル曲やロング・ヴァージョンを集めてDISC3に収録した。

●99.08.上旬

 CDのマスターが出来た後、何をやっていたかというと。
 まずインナースリーブ。これはいわゆる「歌詞カード」とか「歌詞ブック」と呼ばれるやつ。綾辻氏に書き下ろしの「YAKATA」サントラによせて という文章を頂いた。あとは私自身の1曲づつの解説と、「忘却の夜」「翔べない瞳」の歌詞である。表紙は、表はロゴを使い、裏はゲームからキャプチャーした名場面(?)集。

 続いてジャケットのアートワーク。ケース表は黒地に黒で印刷、裏はポスターにも使われた妖鳥シレーヌ(みたいなオブジェ)を配して黒を基調に。

 CDのレーベル面は品質の関係で白をベースに。実は誤植をしてしまい、100枚以上プリントし直した。とほほ。初期ロットの中には、1枚目のラベルに間違いがあるものが混ざっているかもしれません。みつけたらそれは貴重。

 これでようやく出来上がり、である。長い間おつきあいいただきましてありがとうございました。

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